千葉商科大学サービス創造学部の教員を紹介する「教えて、センセイ!」。その第1回に登場するのは経営行動論を専門とする教務委員長の中村秋生教授。アパレル企業の人事部を経て、現在は研究者、教育者としての実績を積み重ねる彼が考える学びの本質とは。

 

経営学の主役は生身の人間、だからこそ難しい 

――先生のご専門は「組織行動論」ですね。

中村 人と人との関わりには2種類あると言われています。

そのひとつが「争う」こと、究極的には戦争です。争いばかり続けていれば人間は滅びてしまうはずですが、実際にはそうはなっていません。すなわち、もうひとつの人間の関わり方があるからです。それは協働、いわゆる「助け合う」ことです。そして、人が協働し合うために組織はつくられるのです。

しかし、人と人の間には、利害関係、価値観の違い、あるいは感情などが影響して、さまざまな問題が起こります。どのように人間関係を築き、どのようにやる気を保ち、どのように人を引っ張っていくのか。そこでは、コミュニケーション、モチベーション、リーダーシップといったテーマが必ず問題になります。

経営学の本質はこうした人間固有の問題にあり、私が研究する組織行動論もその一部を担っています。

 
――対象が人間ゆえの難しさもありそうですね。

中村 経営学は、歴史的に100年そこそこの新しい学問です。いかによい経営をするか、と考えるとそこには必ず、喜び、苦しみ、怒り、悩む、生身の人間たちが出てきます。どんなに素晴らしい戦略が策定できても、組織が円滑に作用しなければ実行できません。

たとえばそのひとつが「リストラ」です。かつて私は、レナウンの人事部で19年間勤めてきました。その間にリストラも経験し、その事務局として多くの社員からさまざまな相談を受けたこともありました。机上の経営論では、人員削減によって財務改善を計算するわけですが、現実には人の感情が存在しますから、組織にはさまざまな影響が及びます。

学生たちにも、ただ仕組みだけを教えるのではなく、仕組みの裏側にある存在する人の重要性を伝えていきたいと意識しています。

 

善良な市民が悪人への一歩を踏み出す瞬間

 

――先生が、今一番関心を持たれているのはどんな分野ですか。

中村 それは「倫理」の問題です。さまざまな企業の不祥事が世の中を騒がせています。私にも会社員時代の原体験として、会社の懲罰委員会などにかけられるケースを見てきました。悪いことをした人も、元々凶悪だったわけではありません。よき親、よき夫、よき妻、よき息子、よき娘、よき隣人……そういう人たちが、ある一線を踏み越えてしまうのです。

何故その一線を踏み越えてしまうのかと言えば、それはそこに組織があるからです。この点については、組織と人の行動との関わりを論じる「組織行動論」の観点から研究し、自分なりに解明してきました。

次の課題は、どうしたらこの問題を解決できるかという議論です。すなわち、善良な市民が一線を踏み越えないようにするにはどうしたらいいかという研究です。

 

――確かに、経営におけるリスクマネジメントは注目を集めています。

中村 ええ、「企業倫理の制度化」が課題となっています。これに対して、経営者や個人が頑張るだけではなく、組織として予防しようという動きがあります。倫理担当役員を置いたり、倫理委員会を立ち上げたり、あるいはコンプライアンス担当部署を設けたりしながら対応する動きです。倫理についてスタンダード化したり、何か問題が起こった場合にホットラインで直接相談できる窓口を設置したり、内部告発が円滑にできる仕組みをつくったり、そして倫理教育を施したりと、企業倫理を制度化するためにさまざまな取り組みが行われています。

大学という高等教育機関で扱えるのは、これらの中でも「教育」だけです。ですから私は、高等教育機関における倫理教育、中でも「経営倫理教育」に関わっていきたいと考えています。この経営倫理教育についての研究がなされているのは、欧米が中心で日本にはほとんど研究の蓄積がないため、欧米の先行研究を手掛かりにして、実際のビジネススクールや大学などで、どのような教育が行われているのかを調べ、自身の研究を進めているところです。

 

――具体的にはどんな内容なのでしょう。

中村 まず、自分が直面している問題がいいか悪いか、はたまたグレーゾーンなのか判断することが大切です。これらは認知教育といって、比較的研究が進んでいるジャンルです。

しかし、把握した問題を解決できるかどうかはまた別問題です。つまり、悪いと判断できたとしても、いい方向に向かって「やる」「やめる」という行動がとれるかどうかです。これは単に論理的に理解するということだけではなくて、感情や意志といった部分、いわば「道徳的勇気」をいかにして養うかという徳育教育の問題になるのです。実際には、この勇気がどういうもので、それは倫理的行動にどのように結びつくのか、そしてどうしたらこの勇気が身につくのかを明らかにしなければなりません。この研究を進め、理論としてまとめていくことは、今後しばらくの間、私自身のライフワークになると思います。

 

 

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